農★blog - 境界線を越えて
休日の朝、特に天気の良い朝は、近くの公園に出かけていくのが楽しみになりました。林の中に住んでいるかわいいお客さんに出会えるからです。「今日も出会えるかな…」「どの辺で遊んでいるだろうか…」。デジカメを手にして公園の中の遊歩道をたどり、ゆっくりと周りを見わたしていると、木立の中にすばやく動く影…。いました、いました、エゾリスです。
先週お目にかかったのはもう少し大きかったので、どうやら別の個体なのでしょう。木の上と下を往復したり、木から木へと飛び渡ったりと、元気いっぱいのため、おとなしく写させてくれたりはしません。まあ、そういうエゾリスとうまく折り合いながら、なんとかして良いカットを撮影するという、その苦労も楽しさの一つなのですけれど。こうして休日の午前は、すぐにお昼近くにまでなってしまいます。
この日は、もう一人の珍しいお客さんにも出会いました。それがこちらのエゾシマリス。冬眠しないエゾリスとは違って、エゾシマリスは10月から4月まで、約200日間ほど冬眠しますから、このエゾシマリスは動き始めて間もないのでしょう。エサを探しあてるとほお袋いっぱいにそれをつめこんでいました。そのしぐさがまたなんとも言えず、心を潤してくれます。
エゾリス、そしてエゾシマリスは、日本では北海道だけで見られる動物です。他にも、多くの方がご存知のとおり、ヒグマ(正確にはエゾヒグマ)、エゾシカ、エゾナキウサギ、キタキツネなどの動物やエゾカンゾウ、エゾキスゲ、エゾオヤマノエンドウなどの植物、そして昆虫などでも、本州では見られない生物がたくさん生息しています。
そうした違いがもたらされたのは、北海道と本州とを隔てる津軽海峡が「ブラキストン線」という動植物の分布境界線の一つになっていることや、気候条件の面でも北海道が亜寒帯で本州は温帯に区分されること、などによるものだとするのが一般的な説明です。そう言われると、なるほど北海道は、本州とは文字通り「一線を画した」場所なのだと分かりますし、その北海道での開拓や農耕の取り組みは、たいへんな志にあふれた挑戦だったのだなあ、と改めて考えさせられます。なんと言っても、あの生命力あふれる「ゴキブリ」でさえ、つい先ごろまではこの「ブラキストン線」を越えてはこなかったのですから…。
先般、「2008米穀年度において、北海道内で消費された食用米は約35万6,000トン、そのうちの26万6,000トン、74.8%が北海道産米で占められた」というデータを北海道が発表していました。地元の北海道民でさえ半分程度、低い時には3分の1程度しか食べていなかった北海道米を、今では4分の3もの道民が食べるようになってきたのです。それだけ北海道米の「おいしさ」や「安全・安心」が、道民に浸透してきたということでしょう。ちなみにわたくしは、以前は「ほしのゆめ」で、最近では「ななつぼし」「ふっくりんこ」がお気に入りです。ここを土台に、道産米の食率80%を達成する、さらには本州以内においても北海道産米の普及を図っていく、というのが北海道の次なる目標だといいます。
自然の分布境界を越えた動植物の移入は生態系を乱す、農業被害をもたらす、などさまざまな影響を及ぼすため、人間の手によって動植物を本来の生息地から他の地域に移動させるのは好ましくないといわれています。でも、おいしい農産物が産地を越えて広く流通し、それを通してお互いがさらに切磋琢磨していくというのは、生産者にとっても消費者にとっても大切なことのような気がします。その意味でも、北海道米の評価が「ブラキストン線」を越えて、どんどん全国でも高まっていってほしいと、道民の一人としては願っているところです。